自分を信じて
「自分を信じて!」
そう言われたとき、カヨさんの瞳はウルウルしました。
カヨさんは二十年以上も、
ある宗教団体に所属していました。
そこでは、「神に従いなさい」と言いながら、
教祖が「神」でした。
「私たちは皆家族」と言いながら、
「家族の行事」に縛られていました。
従順が服従に置き換えられ、
自分の意見を通そうとすることは、
自己中心の罪になりました。
内部分裂がもとで、その牙城が崩れ去ったとき、
献身者としてのカヨさんも行き場を失いました。
身も心もボロボロの思いで過ごしていましたが、
二年たってようやく落ち着いてきました。
そんなある日、友だちに誘われて
空手道場に通うことにしたのです。
もともと格闘技への興味はあったので、
カヨさんは熱心に稽古しました。
その努力が実って、入門して間もないのに
試験を受けるように言われました。
ほんとに受けていいんだろうか と
いぶかるカヨさんに、館長は力強く言いました。
「自分を信じて!」
今まで、そんなふうに言われたことありませんでした。
むしろ自分を否定して、教祖を信じ、
教会に依存するようになっていたのです。
館長の言葉で、カヨさんは目が覚めました。
「そういえば、自信って、
自分を信じるって書くんだよね」
道場の帰り道、カヨさんは そう言うと
胸の前でこぶしを ぐっと握りしめました。