歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

自分から関わる

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ジュンくんは 理学療法士です。 高校時代は 

あまり成績は芳(かんば)しくありませんでしたが、

専門学校に入って良い先生に出会い、

熱心に学ぶようになりました。

卒業後も頑張って、

病院を掛け持ちするほどの忙しさです。

 

ところが、患者さんたちから

「先生、先生」と呼ばれるにしたがって、

気持ちが大きくなっていきました。

 

ある時、90歳ながら 

とてもしっかりしているお婆さんが入院してきました。

お婆さんは夜中にトイレに行きます。 

夜勤の看護師たちは、

ころんで怪我(けが)でもされたら面倒だからと、

室内で溲(し)瓶(びん)にするように言うのですが、

お婆さんは嫌がります。

頭もはっきりしているし、

多少ふらついたって自分の足で歩けるのですから、

トイレで用を足したいと思うのは当然でしょう。

 

それでも、ジュンくんは お婆さんの気持ちより、

病院の都合を優先して、

夜中に出歩けないように ベッドにくくりつけました。

 

その翌日からです。 お婆さんの様子が一変しました。

急激に惚(ぼ)け始めたのです。

 

うつろな目を見て、

ジュンくんはショックを受けました。

冗談も言い合えるような 明るいお婆さんに、

自分はいったいなんてことをしてしまったんだ!

 

お婆さんの手をさすりながら、

「ごめんね。ごめんね」と泣いて謝(あやま)りました。

 

それから、ジュンくんは 

お年寄りのことを人一倍考えるようになりました。

 

今は特に、退院の時期を迎えても 

家族が引き取りたがらない お年寄りに

心を痛めています。

 

年のせいにして なんでも人頼りにしたり 

引きこもりがちなお年寄りに、

ジュンくんは パソコンを教え始めました。

 

「現代は、インターネットというのがあるんだ。 

 家にいても 世界と繋(つな)がることが

 できるんだよ。

 自分からもっと人と関わっていかなくちゃ。

 できない できないじゃ 

 おいてきぼりにされちゃうよ」

 

体だけではなく心も――お年寄りの持っている可能性を

最大限に引きだしてあげたい――そう願って、

励ましているジュンくんの姿がありました。

 

今日は ジュンくんの お誕生日です。