歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

自己嫌悪の猫?

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メイさんは、眠っている三毛を見て、思いました。

「三毛は、怠けたくて 寝てるんだろうか」

 

そうして、そんなことを考えてしまう自分が 

おかしくなりました。

三毛は、眠たいから寝てるだけだし、

起きたかったら起きる。

動きたくなれば動くだろうし、

食べたかったら食べる――ただそれだけなのに。

 

このところ、やる気の無い自分を 

メイさんは情けなく思っていました。

「怠け者」という言葉が ちくちくします。

 

「私が もし 無人島に一人でいたら、

 こんな風に感じるだろうか」

人目を気にしてのものなら、それは なさそうです。

 

「それでも、自分で自分を責め続けるとしたら、

 なぜだろう」

 

すこやかな三毛の寝顔を見ながら、また考えました。

「自己嫌悪の猫なんて、見たことないよなぁ」

 

メイさんは、自分を責めるのではなく、

別の見方をしてみようと思いました。

 

「こういう状態って もしかすると、

 なんか違う――私の望む生き方と違うぞっていう

 警告なのかしら。 

 やりたくないことをやるのを、

 心と体が止めているのかな」

 

そういえば このところ、

好きなことをしていない自分に 

メイさんは気がつきました。

 

高校生の頃は「ウインブルドンを目指すぞ!」

とか言いながら、テニスに夢中になったものでした。 

どんなに疲れていても、

練習だけは休みたくありませんでした。

ご飯もいっぱい食べて、

バタンキューと寝てしまいました。

 

赤毛のアン」を読みふけって、

とうとう夜を明かしたこともありました。

孤児院からカスバート家に引き取られていく

アンの様子が目に浮かびます。

マシューの馬車に揺られながら、

白い林檎の花びらが舞い散る並木道にさしかかった時

「まあ! カスバートさん! カスバートさん!

 カスバートさん!」と叫んだ場面です。

 

「でも 今、私の好きなことって何? 

 私は何がしたいんだろう」

考えても、思い浮かびませんでした。

もう長いこと、自分に聴くことを

してこなかったのですから、無理もありません。

 

何をやってもやらなくても、

すぐに理屈が追っかけてきて、

「こんな事して何になる」とか

「こんな事やってる場合か?」などと、

つまらなくしてしまうのでした。

 

三毛が目を覚まして、大きく伸びをしました。 

ストレッチと毛繕いをすますと、

凛とした顔立ちで窓の外を見やり、

そのまま しなやかに越えて行きました。 

研ぎ澄まされた感性が、

きらめく夏の陽射しの中へ放たれました。