歌う珈琲屋さん

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焼け石に水

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歯科健診

「母さんならどうする?」

娘に聞かれて、私は言葉に詰まりました。

二人で、テレビに映しだされる広島の 

悲惨な原爆シーンを観ているときでした。

生き残った人々がさまよう地獄絵の中に一人、

幼い女の子が取り残されていました。

 

娘は、通りすがりにその子を見かけたら、

一緒に連れていくかどうかと聞いたのです。

 

「連れていこうにも、行くあてもないだろうし、

 母さんは多分、あんたたちを連れて歩くので

 精一杯だと思うよ。それに、百歩も行かないうちに

 皆死んでしまうかもしれないし」

私は一応考えたつもりで、

やはり他人の答えを出しました。

 

「私なら連れていくな。たとえ少しの間だけでも、

 人の優しさに触れることができたら、

 その子嬉しいんじゃないかな」

娘の横顔が一瞬マザー・テレサに見えました。

 

カルカッタコルカタ)のカルガリートにある

「死を待つ人の家」では、側溝にはまって、

ほとんど腐りかけている人まで運びこんで、

手厚く介護するそうです。

 

ある記者が、すぐに死んでしまうのに、

なぜ、こんなことをするのかと聞いたら、

「死ぬ間際にせめて、人としての尊厳を

 持たせてあげたいのです」という答えでした。

 

どうせ、という言葉があります。

どうせ、無駄だ。何の足しにもならない。

どうせ、やれっこない。すぐまた、ダメになる。

自分の手助けくらいじゃ何の役にも立たない、

というあきらめや自嘲とともに、

状況や人を見限っている言いぶりです。

 

私は歯科衛生士をしていた時のことを思い出しました。

 

歯科健診に、親子ともども 口腔内(こうくうない)の

状況が良くないのがやってきました。

母親は歯周病で口臭もあり、

三歳の子の歯もべったり汚れています。

幸い虫歯は無かったのですが、

時間の問題だろうと思われました。

母親はなんだかボーッとした人で、

保健指導をしても伝わるかどうか・・・・・・。

どうせ、聞かないだろうな。

言ってもやらないだろうな、と危ぶみつつ、

一応の話はしておきました。

 

ところが、翌年、同じ親子に会って驚きました。

子どもの歯がピッカピカに磨き上げられていたのです。

母親自身の歯肉のしまりも良くなって、

顔つきまで変わっていました。

 

人を見かけで判断しちゃいけないと、

つくづく思いました。

 

残念ながら、人は見かけ通りのことも多いのです。

だから、焼け石に水とばかり、適当に、

はしょったりしたくなります。

しかし、はじめはすぐに蒸発してしまう水も、

かけ続けることによって、

しっとり滲(し)みてくるのかもしれません。