歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

本物に触れる

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子どもの今を生ききらせるために、

より良い環境を整えてやろうと、

保育士と父母が一体となって、

山の斜面を切り開いて建てた保育園がある。

 

そこではすべて陶器の食器を使っていた。

食器は割れる物だと知っているから、

幼い子どもたちでさえ慎重に扱う。

子どもが口に入れるオモチャも木や布でできた物。

歯科的には、

檜には虫歯を防ぐ成分があるとされているし、

白樺の樹皮からは今はやりのキシリトールが採れる。

プラスチック等の石油製品を

舐めさせるよりよっぽどいい。

 

冬には薪を拾ってストーブにくべる。 

羊を飼って毛を紡ぐ。 

自分たちで育てた野菜をいただく。 

自然の中で生き、生かされている。

生活の実感、というものを味わうことが出来た。

 

本物に触れさせたい。 

その一心で、わずか40世帯の在園児の家族が

田舎町に一流の芸術家を呼んだ。

辻久子バイオリンコンサートを皮切りに、

日本のチェロの草分けとも言われる井上頼豊。

津軽三味線の初代高橋竹山。 

ヤナーチェク弦楽四重奏団。 

国立モスクワ合唱団など。

 

彼らは人格も一流で、小さな保育園を訪ねたり、

子どもたちのために特別コンサートを

開いてくれたりした。 その時の感動!

障害児を含む園児たちでありながら、

会場は水を打ったように静まりかえっていたのだ。

まるで幼い魂が演奏に吸い込まれていくように――。

子どもたちは本物を知っている。 

その感性の素晴らしさに親たちは改めて驚いた。

 

1987年9月9日、宇野重吉さん率いる劇団民芸

「おんにょろ盛衰記」。

米倉斉加年日色ともゑさん等、

実に優しく気持ちのいい方たちであった。

その年12月、宇野さんは癌で他界され、

図らずも最期の公演となってしまった。