歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

明るい病院ツアー

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僧侶であり作家の瀬戸内寂聴さんが、

八十歳を越えてなお達者な理由を尋ねられて

「元気という病気なんです」と答えられたという。

そんな病気にかかっていたいものだ。

 

 

コロナ前のお話です。

 

友だちが入院したというので、

見舞いに行くことにした。 

遠慮深いヤツで「何も持ってくるな」と言い張る。

考えたあげく、

小さな台車をトンテンカンと拵(こしら)えた。 

それと花束を持って、

見舞客の少ない頃を見計らって行った。 

 

彼女の個室の前に来ると、

台車を床に置いて その上に花束を乗せ、

ガラガラと曳(ひ)いて入った。

「持ってくるなと言うから、曳いてきたよ」

大ウケ。    

一瞬目を見張った彼女は、

すぐに腹を抱えて笑い出した。

「手術後の傷が痛むじゃねぇか!」 

と文句を言いながら――。

 

病気だからって 心まで病む必要はない。    

ふさぎの虫を笑い飛ばしてしまおう。

 

六つの医療機関複合施設 

「メディカルプラザ」なるものが出来たというので、

あちこち ガタの来だした 

幼馴染みの三人で行ってみた。 

それぞれ別の科を受診するので、

自分以外のときは付き添い、

病院ツアーというわけだ。

 

健康の話をする人ほど不健康だったりする。 

待合室では、カスピ海ヨーグルト

胡麻きなこを混ぜると便秘しないだの、

ノニジュースは雑巾を絞ったような臭いがするけど 

調子が良くなるだの、

シソ油でコレステロールが下がった、

アロエでハゲが治る云々の民間医療満載。 

そんなに知ってるなら、

ここに来る必要も無かろうにと思うのだが――。 

おやおや今度は人生相談、週刊誌のネタから、

環境問題にまで行っちゃった。

 

天井が低く コンクリートむき出しで 

暗~い病棟のイメージは 今や払拭されつつある。 

陽光をふんだんに取り入れた 明るい待合室。 

おしゃれな調度品。 

植物いっぱいで清々しい空気。 

それらが待つ人の心を和ませているのだ。 

 

私たちも、喫茶店でおしゃべりをしているように

寛(くつろ)いでいた――

看護師さんに言葉を掛けられるまでは――

「楽しそうですね。 御姉妹(きょうだい)ですか?」

 

姉妹(きょうだい)!? 

キュウリのように青白く ソロリとしている友と、

インディアンの髪飾りが似合いそうな ゴッツイ友。

私ときたら、名前通りに丸っこい。     

ど、どっこが似てるんよ!

 

笑い顔の 幸せそうな雰囲気で 

そう見えたのかもしれない。 

でも、内心 自分の方がましだと思っている三人は、

とたんに口数が少なくなった。    

「静かにしてください」より、よっぽど効果的だ。