忙しい人
インドを旅した友人が、こんなことを言っていた。
「銀行でもどこでも、大事な要件は、
忙しくしている女の人に頼む」
概して、あちらの男の人は あまり働かないという。
特に、ヒマそうだからとお願いすると、
金はせびるくせに、仕事はまったくはかどらない。
何度かイライラさせられたあげくに
学んだ教訓らしい。
シュウと小旅行をして、私も同じように感じた。
忙しい人ほど、キチンと動く。
カウンセリングや講習会などで
全国を飛び回っている彼女は、実に「忙しい」。
ほとんど自宅で寛ぐ暇も無いのだが、
1~2月はなるべくスケジュールを調整して、
お休みを取る。
と言っても、自傷行為をくり返す人や、
末期癌の人など、
のっぴきならないクライアントを抱えているので、
携帯電話はかかせない。
知り合った頃は、ゆったりと構えて、
いくらでも話すことができた。
電源をオフにしていたのだ。
今では「仕事を持ち込んでごめん」と言いつつ、
旅行中も頻繁にくるメールや電話の対応をしている。
内容は実にストレートで、シンプル。
いつぞやは、私がふらりと札幌を旅したおりに、
要件ばかりでそっけないメールをよこすので、
「だけど、ほんっとに、無駄口のない人だね。
『寒い?』とかって聞かない?―― 普通」
と言ったら、
「あほか、自分で聞け!
そんなに気使わなあかんのか?
札幌が寒いのはわかっとる。
何で わかっとること聞かなあかんのや!」
と叱られた。
そんな調子だから、
対応もチャチャッとすましてしまう。
ホテルについて、シュウがスーツケースを開くと、
ビシッとみごとに詰まっていて感心した。
出したものは、すみやかに所定の位置に戻す。
着替えもすぐにたたむ。 ベッドもキチンと整える。
歯ブラシはホテルのものではなく自前で、
使った後の水場も、サッと拭き取り、
きれいにして出てくる。
動きにそつがなく、
その場、その時、すぐに処理する。
そして、就寝前のひととき、すべてのものを納めて、
端然と座り、心おきなく深い内観に入る。