歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

缶ジュース

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曲がり角の家の方から、

徐々に犬の咆吼が聞こえてきます。

電気メーター検針の人が、各家を回っているのです。

タマエは「コロ! 静かに!」と、

自分の犬に一声かけながら、

検針の人が帰ろうとするときに、

冷蔵庫から取り出した缶ジュースを差し上げました。

「ご苦労様です。 

 いつも うちの犬がうるさくてすみません」

 

強い日差しの中で、キャップを目深に被ったその人は、

目の前の冷えた缶ジュースに一瞬とまどい、

「どうぞ。 暑い中、大変ですね」と

タマエがさらに促すと、

汗ばんだ顔をコクっと下げて受け取り、

無言のまま行ってしまいました。

 

どこへ行っても犬に吠えられ、

時には狭い場所を通ってメーターの検針をしたり、

ガスを交換したりする仕事は、

なかなかしんどいだろうなと、タマエは思います。 

それで、

あまり気兼ねの無いように小さめの缶ジュースを、

チャンスを見つけては渡そうと用意していたのです。

 

「何も言わずに行っちゃったね、コロ。 

 いきなりで失礼だったかなぁ」

とタマエは少し気になりました。

キャップの陰で、表情も見えなかったし・・・・・・。

 

ところが、次の検針の時です。 

今度はコロを押さえて

騒がないようにしていたタマエに、

帽子を脱いだその人が

にこやかに話しかけてきたのです。

「おとなしい犬ですね」と。

 

タマエは、その人の声を初めて聞きました