歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

寿司屋

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ダイくんは、知り合いのおじさんに、

お寿司をご馳走になったことがあります。

それまで、回転寿司しか行ったことのなかった 

ダイくんにとって、

「ほんとの」寿司屋で食べた「大トロ」は、

天国のお魚!のようでした。

その感激を、お姉ちゃんにも味わってほしくて、

ダイくんは、バイトしたお金を、こつこつ貯めました。

 

いよいよ その日が来て、ダイくんは誇らしげに

「今日は、俺がおごってやるからよ」と、

高級そうな寿司屋に おねえちゃんを誘いました。

 

寿司屋の板前は、二人が入ってくると、

うさん臭そうな目で見ました。

『しみったれたガキが 彼女連れて、

 俺様の店へ何しにきやがったんだい』

とでも言いたげに……。

「オオ、オオトロ ふたつ......」

ダイくんは、緊張しながら言いました。

――――返事がありません。

 

ほかのお金持ち風のお客さんたちには、

その板前はきわめて愛想よく振舞っていました。

 

「あの・・・オオ・・・」

何度か声をかけると、やっと握ってくれました。

ところが、お姉ちゃんが 

醬油をつけて食べようとすると、

「そんなに ジャボジャボ つけるもんじゃねぇ!」

と、叱りつけたのです。

 

隣に座っていた女の人が それを聞いて

「醤油くらい好きにつけたっていいじゃない」

と、言い返してくれました。

 

入る時とは大違いに、しょんぼりと店を出た二人に、

その人が声を掛けました。

「いや~な店ね! あなたたちも初めて?」

「はい」

「きょうだい?」

「弟が、バイト代貯めて ご馳走するって 

 連れてきてくれたんです」

お姉ちゃんが言いました。

「偉いわねぇ。 私は母と一緒なの。 

 親孝行ってわけ。 ね、カラオケ行かない? 

 私が出すからさ。 遠慮しないで、パーッと行こう!」

 

歌い合っているうちに、さっきまでの不愉快な思いが、

少しづつ消えていきました。

冷たい都会の風も、ぬるんできたようでした。

 

 

息子と娘の東京物語です。