歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

みかんの木

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みかんの木がありました。

誰に育てられたわけでもなく  

ただ神様にいただいた命で

大地と空とのあいだに 生きておりました。

 

弱々しかった若木は 風にふるえておりましたが

押しくらまんじゅうしているうちに

強さと しなやかさを 身につけていきました。

雨の冷たさに泣いておりましたが

地中深くに根を張って  

すべてを受け入れることを学びました。

 

初めて実がなったとき

木はうれしくてうれしくてたまりませんでした。

けれども  だ~れも気づいてくれません。

 

実が大きくなってくると やっと  

鳥が見つけてくれました。

ところが 鳥は 木が自慢する間も与えず

つっついて 実を落としてしまいました。

 

木は  びっくりして  がっかりして  

その後  ものすごく腹が立ちました。

そして  もう実をつけまい  と決心しました。

 

風がゆさぶり  雨がうながしても

木はかたくなに枝先をギュッとつぼめておりました。

そのうちに  苦しくてたまらなくなりました。

内側から突き上げてくる力を  

出さずにおれなくなりました。

木はかんねんして すべての緊張を解きました。

 

やがて  いくつかの実がなり

小さな女の子にせがまれたお父さんが  

その実をとってやりました。

女の子の喜ぶ顔を見て 木はうれしくなりました。

そして  もっと実をつけました。

 

今度は  部活帰りの男の子たちがやってきて

木登りしながら  実をもいで 

むしゃむしゃ食べていきました。

その間のおしゃべりが  おもしろくて

木は  もっともっと実をつけました。

 

やがて たくさんの人がやってくるようになりましたが

実は  とればとるほど  増えていきました。

 

その間  木は  ただただ  

内側の力をさまたげないように

リラックスして  楽しんでおりました。

 

そうやって  みかんの木は  

みかんの実を  たわわに  みのらせながら

 

大地と空とのあいだに  生かされておりました。