歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

まごころのピンどめ

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タマさんは お姉さんから 

誕生日プレゼントをもらいました。

緑の包装紙を ていねいに結んだ赤いリボンをほどくと

おもちゃ屋さんで買うような 

小さなピンどめが出てきました。

小さな花がついていました。

 

お姉さんは ガード下に住んでいます。

電車が通るたびに ガタガタ揺れます。

狭くて暗い借家でしたが いつも小奇麗にして

二人の子どもを 精一杯育てています。

 

タマさんは 働いています。

稼いだお金は ほとんど自分のことに使っています。

服も ちょっと贅沢な物を この前買ったばかりです。

 

そんなタマさんの誕生日を 

お姉さんは忘れたことがありません。

どんなに生活が苦しくても 

手作りのポシェットであったり

何かしらプレゼントしてくれるのです。

 

「ありがとう」

そう言って タマさんは お姉さんの家を出ました。

 

駅のベンチで もう一度 包みを開きました。

ピンどめと 涙が キラリ 光りました。

 

 

 

 

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あろうことか、私はその価値あるピンどめを失くしてしまった。

今の私だったら、決してそんなことはしないだろうが、当時は若かった。

ごちゃごちゃ動き回る生活の中で、いつの間にか紛失してしまっていた。

せめて、感謝の気持ちを込めて文章にしておこうと思った次第。