源蔵は、ダンプカーの運転手をしていた。
普段は無口で大人しい男だが、
ハンドルを握ると 人が変わった。
険しい目つき、乱暴な言葉遣い。
源蔵が最も嫌うのは、ミニバイクの輩(やから)だ。
ちょこまかして、邪魔な奴ら。
やっと追い越したかと思うと、信号で止まった隙に、
プイ~ンと前に躍り出る。
「また、ハエが来やがったな!」
青に変わるやいなや、源蔵は思いっきり
クラクションを鳴らして、ビビらせる。
「どーけ どけ! トラック様のお通りだー!」
と言わんばかりに、押しのけて行こうとする。
少しでも中央寄りに走るバイクがあれば、
わざと幅寄せして道路脇に追いやる。
そんな源蔵であったが、ある日を境に態度を改めた。
最愛の娘が、事故にあったのだ。
長距離トラックの運転手で、
家を空ける日々の多かった源蔵は、
娘が、交通の不便な大学へ通うために、
バイクの免許を取った事を知らなかった。
そして、なんと
源蔵と同じような大型トラックに幅寄せられて、
道路脇に激突してしまったのだ。
幸い、飛ばされた先が草地になっていて、
命に別状はなかったが、包帯だらけの姿に対面して、
源蔵は絶句した。
「お~い。
そんなに、ビンビン飛ばすんじゃねぇよ。
気~つけて行きな」
ダンプカーの窓から、ミニバイクの若者に、
源蔵は声を掛けた。
信号が変わっても、ゆっくり発進した。
以前は「ハエ」呼ばわりしていたバイク族の背中を、
「必ず無事で帰るんだぞ。
父ちゃん母ちゃんに 心配かけんじゃねえぞ」
今は、祈るような気持ちで見守る源蔵であった。