プラマイ0
「ほい、タカシ。 ちょっと肩もんでおくれ。
あ~あ、くたびれた。
あの、ばあさんち、草ボウボウじゃ」
洗った草刈り鎌をベランダに立てかけて、
タオルで汗をふきふきツネミが言った。
「また、どこかでボランティアしてきたの?
いいかげんにしないと、もう年なんだから」
めんどくさそうに肩をもみながら言うタカシ。
「なんとおっしゃるうさぎさん!
(うさぎじゃねぇって)
年だからこそ、年金貯めねば」
いつもながら、訳の分からん事を言い出すツネミに、
タカシがとまどいながら聞いた。
「年金?」
「そうじゃ。
人はな、死ぬまでにプラマイゼロになるんじゃ」
ますます分からん「なに? それ」
「+ - = 0
やった分だけ返ってくるということ。
良い事をすると、良い事が返ってくる。
悪い事をすると、悪い事が、な。
だから、老後の安泰を願うなら、
今の内、人の手助けをしとかんとな」
「でも、母ちゃんは年寄りの世話ばかりしてるじゃん。 ありがとうって言う人たちは
み~んな先に死んじゃって、
母ちゃんの番になっても、誰もお返し出来ないよ」
「だから年金なんじゃ。
神様の手帳にチャ~ンと母ちゃんの記録があってな、
いよいよ母ちゃんの番がきたら、
いろんな人や物を使って、
あの手この手で返してくれるんよ」
「ふ~ん」
「ちなみに・・・」と言いながら、
ツネミは化粧台の引き出しから、
小さなノートを取り出して来た。
表紙には「タカシ」と書いてある。
「ボクの? ノート?」いぶかしげに見るタカシ。
ツネミは開きながら読み上げた。
「あんたは、忘れっぽいからね。
ちゃんとお返しできるように、書いといてやったよ。
五月五日のマジンガーゼット。 並寿司。
クリームパフェ。お弁当36回分。傘届け24回。
手縫い雑巾三枚かける五学年は・・・・・・
タカシに出世払いは期待出来そうもないからなぁ、
ここはひとつ先払いということで
六十歳から月々・・・・・・」
おちゃらか おちゃらか おちゃらかほい
おちゃらか 有償の愛? おちゃらかほい