歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

お年寄り

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親しみやすさはいい けど 無礼はいかん

お年寄りを 子ども扱いしていいって 誰が決めたん?

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ケアマネジャーの資格を取って 

様々な施設を見学させて頂いた。

その中で 特に印象に残っている所がある。

 

その施設では「おじいちゃん、おばあちゃん」ではなく

「田中さん」だの「伊藤さん」だのと 

きちんと 名前で呼んでいた。

レクリエーションの時には 

かつて デイケアに通っていた母が

「幼稚園児じゃないんだから」と言っていた 

一斉折り紙やチラシの傘づくりではなく

個々の能力に見合った 課題や 遊びが 

工夫されていた。

 

その中で一所懸命に 適度な大きさに切られた新聞紙を

折りたたんでいる人がいた。

お掃除のときに役立つものだ。

それが ある程度たまると 

お気に入りの職員に渡しに行った。

この人は普段「家に帰る」と言い張って 

車いすごと ドアに何度も体当たりする。

人の言う事は聞かないし ほとんど理解できない。

しかし、「やさしい人だけはわかる」らしいのだ。

 

もと大学教授の女性がいた。 

その人は 自分の排泄物を含んだ衣類を 

箪笥の奥にしまい込む習性があった。 

風呂嫌いで 自分自身も汚物まみれの状態であったが 

プライドだけは高かった。

 

この人と二人きりになる機会があり 

ひょんなことからクラシック歌曲の話になった。

そこで私は フィガロの結婚に出てくる

ケルビーノのアリア

「恋とはどんなものかしら」を小さな声で歌った。

すると、それまで あてもなく彷徨っていた視線が

ピタッと止まり、

私の目を真っ直ぐに見て言った。

「あなた、キーが下がっているわよ!」

そうなのだ 私 音程下がり気味なのだ って 

まともじゃん!!

その一件以来私は気に入られ 私が施設にいる間 

その人は私を見つけると喜んだ。

そして歌うと 相変わらず厳しい指摘をするものの 

実に穏やかで 良い顔をした。

 

その施設のケアマネジャーさんが 

入りたての若い介護職員を叱っていた。

「勘違いしないで。 あなたが、

お年寄りの世話をしてあげているんじゃないのよ。 

私たちは 入所者さんたちのお陰で 

仕事させていただいてるの」

 

清潔で 明るい 素敵な 施設だった。