歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

知らずに落としてしまう

Aさんはこの真新しい家ができるまでは、

一人暮らしをしていた。

しかし、だんだん弱ってきたので、

家を建て直し、

息子一家と同居することになった。

 

Aさんの部屋は二階にあるが、トイレや食事、

お風呂は階下で息子たちと共有している。

 

ある日、息子に「二人だけで話がある」と言われ、

その話は何とAさん本人が気づかないうちに

一階の廊下に便を落としていたということだった。

しかも二回も続いたというのである。

 

直接話すことができなかった

嫁の立場の弱さもわかるが、

それを言わねばならなかった息子も

さぞかし辛かったのではないかと思う。

せめて娘であれば違ったかもしれない。

 

誰よりも辛いのはAさんである。

それを知ってからAさんは

自分の部屋から出るのも恐怖で、

なるべく歩かないようにしているという。

 

「私は便を漏らしたことも

 全く気がつかなかったのですから、

 ひょっとしたら、今まで外でも

 そのようなことがあったかもしれないと思うと、

 人と会うのが苦痛になってしまいました。

 こんなこと、恥ずかしくて誰にも相談できず、

 今まで一人で悩んでいました。

 

 食事をすると便が出るから、

 なるべく食べないようにしていますが、

 生きているということはやっかいなことで、

 家族の手前、

 何も食べないというわけにはいきません。

 

 こんなになるまで長生きしてしまって、

 早く死にたい」と涙を流された。

 

涙を見て私は「冗談じゃないっ!」と

心底叫びそうになった。

八十年も前向きに一生懸命生きてきた方が、

人生の終盤のたった二回の便失禁で

自分の人生に否定的になるなんて、

絶対に許せないと思った。

 

私は大いに憤慨し

「何とか良い方法を考えましょう」と伝えた。

いつも着物で過ごしてきたAさんは

下着をつける習慣がなく、

そのために起こった悲劇ともいえる。

 

西村かおる著「パンツは一生の友だち」より

 

 

健康な成人女性の三人から四人に一人は

尿失禁を経験しているという

統計結果があるそうです。

 

わたしのまわりにも 

排泄の悩みを抱えている人は多いです。

にもかかわらず なかなか話しづらく 

助けを求める人も少ないのが現状です。

 

排泄ケアナースの西村さんは 

わたしもお世話になりましたが 

とても気さくな方でした。

 

最寄りの泌尿器科でもいいのですが

「コンチネンス外来」という専門外来があれば 

一人で悩まずに 

速やかに受診なさることをお勧めします。