歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

私の流儀

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十年ほど前のお話です。

 

アウトドアショップのツアーで山登りに行きました。

私は目的のない旅は滅多にしないタイプで 

それまでに訪れた白馬岳や八ヶ岳などの山を登るにも 

ひたすら頂上を目指していきましたが、

その時は年配の方も多かったので 

ゆっくりペースになりました。

 

おしゃべりしながら、

途中で出会った花や鳥たちを愛でながらの行程も

なかなかいいものだと思いました。

 

それでも、キツイ! 

こんな難儀なことを どうして人はやりたがるんだろう

と思い始めたころ、やっと頂上にたどり着きました。

輝く雲海 碧い尾根 凛とした空気

微かに点在する色とりどりの屋根 

そこには

「頂に立った者にしか見えない景色」がありました。

 

達成感を充分味わった後、

下山し 今日の宿へと向かいました。

 

宿では 60台位のご婦人と相部屋になりました。

山登りの最中は少し会話を交わした程度の方です。

部屋に荷物を置き、食事の席で あらためて 

皆さんの自己紹介があり 和やかな雰囲気の中で 

お開きとなりました。

 

お風呂をいただき、夜具の整った部屋で 

またしばらく おしゃべりをして眠りにつきました。

 

「おはようございます!」

 

私は元気に起き出して、夜具を片付け始めました。

すると、その方が私を制するかのように言うのです。

 

「ちょっと、あなた。

 布団を片付けるのは 宿の人の仕事よ。

 それでお給料もらってんだから。

 人の仕事とっちゃダメよ」

 

私は「そうですか」と返事はしたものの、

その方にお構いなく 

いつものように 使った枕カバーとシーツを外し 

布団を畳んだ上に載せました。

 

その方は 急に厳しい顔になり 

広げっぱなしの布団を ザバザバと丸めると、

「ふん!」と足で蹴りました。 

 

一泊旅行でしたので、

後はちょこちょこ立ち寄りながら帰るだけなのですが、

その方は それ以降 

私に対してつっけんどんな態度を取っていました。

 

でも、さすがに大人げないと思ったのか、

最後の最後、お別れする時になって、

どこかの土産物店で買ったであろう 

小さなキーホルダーをくれました。