歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

普通の人

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「普通の人」は いない

わたしか そうでないか それだけ

 

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「常識だろ」という言葉を 

私は 人に言わないようにしています。

 

私がいて あなたがいて 

もし あなたが 私の知っていることを

知らないとしたら ただ それだけのこと。

 

二分の一の確率で 知らないのだから 

常識って言葉を用いるまでもなく  

もし それを 知る必要があるのだとしたら 

知っている私が 

教えてあげればいいだけのことです。

 

 

イタリアからソプラノ歌手を招いて 

大規模な「第九」の演奏会がありました。

100名の合唱団が集められ、

私はソプラノで、四度目の第九です。

 

その中に 40代くらいでしょうか、

初めて参加の人がいて 

ドキドキワクワクしている様子が見て取れました。

 

「素敵なお声ですね。

 どこかで歌ってらっしゃるんですか?」と聞くと、

踊りの先生をしているが、

この様な合唱に出るのは初めてとのこと。

「どうりで、姿勢がいいのですね。

 お声も良く通っていますよ」と励ましました。

 

午前中のリハーサルが済んで 

午後にはいよいよ本番という時、

その方が血相を変えて 私のもとにやってきました。

 

「黒いタイツ 持っていませんか?!」

「どうしたの?」

 

合唱団は白のブラウスに黒のスカートと

決められています。

「でも、私、ストッキングまで黒だとは

 知らなかったんです」

 

「そんなことも知らないの? 常識でしょ!」と、

隣の年配の人に言われて、

あわてて唯一知り合った私の所へ来たのです。

 

「もう買いに行く時間もないし、どうしましょう」

と青くなっています。

 

これから歌わなくてはいけない人に 

なんて厳しい言いぶりでしょう。

 

私は 自分の七分丈ソックスを脱ぎました。

「私はロングスカートなので、少し下にすれば 

 足元を隠せます。あなたがもし嫌でなければ 

 これを履いてください。

 でも、あなたは後ろの方なので、

 次の立ち位置チェックの時に何も言われなければ、

 大丈夫だと思いますよ」

 

結局 彼女の足元は誰の目にも止まらず、

私のソックスも必要ありませんでした。