負けてもいいよ
運動会が迫って、
一輪車競争の選手を出す事になりました。
「一輪車に乗れる人~」
スズコ先生が三年二組のみんなに聞くと、
ちょうど規定の三人が手を挙げました。
「あ~良かった! じゃ、これで決まりね」
しかし、練習を始めて見ると、
なんと実際に乗れるのはサオリだけでした。
ミチルとタカシは座るのがやっと。
それでも、一輪車に乗りたくて仕方がなかったのです。
「困ったな~。 運動会まで後二週間しかないよ。
ほんとに乗れる人に代わってもらう?
これでは優勝はむずかしいよ」
三年二組は、初め、返事の声も聞こえないほど、
おとなしいクラスでしたが、
体育会系出身のスズコ先生が、
元気もりもり一緒に遊んだり、
体育指導をしているうちに、
どんどん明るくなっていきました。
そして、運動会のために、
毎朝あらゆる種目を練習して、
総合優勝をねらうまでになったのです。
腕組みしながら、ん~・・・と、
考え込んでいる先生の側で、
ミチルとタカシは泣きべそをかいています。
その時、ちょっぴり暴れん坊のススムが言いました。
「負けてもいいよ」
え? 先生と、前に立っていた一輪車組の三人は、
顔を上げました。
「そうだ、負けてもいいよ」マサミも言いました。
「やりたいって言ってるんだから、
最後までやらせてあげようよ」他の子も言いました。
そして、クラス全員で、そうする事に決めました。
こほん。
スズコ先生は、咳払いをして 黒板に顔をそむけ、
うれし涙をそっとぬぐいました。
ほんとの勝利は何か、
子どもたちは よく知っているようでした。