歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

空しい席

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空港行きのバスは混んでいました。 そこへ、

赤ちゃんを抱っこした女の人が乗ってきました。

ひとり掛けの椅子に座っていた眼鏡の女の人が直ぐに

立ち上がり「どうぞ」と親切に言ってくれました。

ところが、その人は乗車口近くの垂直棒を

ぎゅっと握って立ったまま

「いえ、結構です」と小さな声で断ったのです。

 

『きっと、すぐに降りるんだな』。

後ろの席で見ていた私は思いました。

赤ちゃんを抱っこし、荷物も持って、

揺れるバスの中で必死に棒にしがみつく姿は 

哀れな感じがしました。

やがて、次のバス停に着きましたが、降りません。

その次も。そのまた次も……。

眼鏡の人は、いったん席を譲ったからには 

また座るわけにもいかないようで、

所在なさげに突っ立ったままでした。

 

『空席』を見ながら、思いました。

赤ちゃんを抱っこした女の人が「ありがとう」って

すんなり座ってくれたら、席を譲った人も

『いいことしたな』って思えただろうし、その様子を

見ていた乗客のみんなも、ほっとしただろうになって。

 

 そのとき、突然、神様(天でもなんでもいいのですが)の気持?が分かったような気がしました。

私たちを助けたくって助けたくって仕方なくて、

色々と親切な仕掛けをしてくるけれど、

私たちは素直に受け入れることができないばかりか、

気づいてさえいないことがあるのじゃないか。

それを、天使たちがハラハラしながら

見守っているのじゃないか、と。

 

女の人がどういう事情で座らなかったのかは知りません。

座るとお尻が痛む人なのかもしれません。

だから、彼女を責めるつもりはありません。

 

ただ、六つ目のバス停で降りていく母子を見ながら、

幸せを願うばかりです。