歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

選ばれなかった理由

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マリコは、中学校の人気者でした。

生徒会長に立候補したときは、在校生1800人中、

確か1100票以上とり、

これはこの中学校始まって以来の快挙でした。

 

マリコにはユーモアセンスがありました。

四人の対立候補者が真面目に掛けているタスキを、

マリコはふんどしのように

スカートの前に垂らして登場したのです。

しかも話の途中でピラピラと風に託してしまいました。

 

応援弁士の「たぬき」も、あだ名の通りとぼけた奴で、

大いに笑わせてくれました。

ただ、もう一人の「タカコさん」は、

皆に「さん」付けされるだけあって、

落ち着いた推薦の言葉を述べました。

その、絶妙なバランスが功を奏したのでしょう。

 

しかし、そうなると、心配なこともありました。

その当時、目立つ子は不良の制裁に遭う

という事がしばしばあったからです。

 

ある日、中庭を歩いていると、

二階のベランダからバケツの水をかけられました。

「なにすんのよ!」怒りに任せて駆け上がっていくと、

いつも教室の後ろでたむろしている連中の一人が

幾分申し訳なさそうに進み出ました。

「ごめん。……あのさ、友だちになりたかったんだ」

そう言って謝りました。

 

マリコには、正義感も負けん気も強くありました。

生活保護を受けている子が、

クラスの子に飴玉を配った時、

担任の先生が

「国のお金を貰っているのに、人にやるんじゃないよ」

というのを聞いて、

「先生、放課後残ってください。この発言について、

 クラスの皆と話し合いをしたいと思います」

と迫ったこともあります。

先生は結局来ませんでしたが、

これは「先生を裁判にかけようとした子」事件

として有名になりました。

そんな気立てが、

不良たちの心にも響いたのかもしれません。

 

中学校弁論の全国大会に向けて、

校内代表を決める日、マリコは原稿を全て覚え、

堂々とした話しっぷりでした。

 

話し終えて壇上から降りたとき、

くだんの不良が二人、歩み寄って来ました。

マリコ、カッコよかったよ」

そう言って、うらやましげに見つめるのでした。

 

(この中の1人は、このことがきっかけで

 まじめに勉強し、

 今では夫婦で一級建築士事務所を構えています)

 

県大会の日、十数名の弁士の中でマリコの存在は、

ずば抜けていました。

しかし、一位はおろか、入選すらしませんでした。

 

聴衆がざわめく中、一人の審査員が

帰りかけたマリコに、そっと近づいて言いました。

 

「君、とても良かったよ。

 でもね、政治の話はどうも・・・・・・次は

 沖縄や米軍基地のことは取り上げない方がいいよ」

 

 

 

「のんちさんの作文」がきっかけで、この事を思い出しました。

 のんちさん、ありがとう。 記事も素晴らしかったです。

 

今は「不良」なんて言っちゃいけないのかな。品物じゃないものね。

でも、当時はそう言ってたんだ。だから、ごめんしてね。