歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

我が子

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出産時の帰郷。 

サナエは三ヶ月間、 

夫の実家に 産まれたばかりの息子共々 

身を寄せる事になりました。

 

初孫とあって、産まれた時は

親戚中が集まって大騒ぎでしたが、

一ヶ月経った今も、

義母はカズオを下へも置かぬほど、

大事にしています。

生活のすべてが

カズオを中心に回っているかのようでした。

 

サナエのお友だちがお祝いに集まってくれた時も、

義母は別の部屋で

カズオをあやしてくれていたのですが、

途中で様子を見に来たサナエを、

いつまで子どもをほっとくんだと言わんばかりに

「キッ」と睨み付けました。

 

サナエはあわてて、

お友だちのいる部屋にとって返し

「悪いけど、みんなもう帰って」と、

言わざるをえませんでした。

 

食事の支度やらなんやら、

ほんとに良くしてもらっているのですが、

「おっぱいのために、これも食べなさい、

 あれも食べなさい」と言われると、

なんだか 自分がカズオを育てるためだけに 

居させてもらっているかのような気がしました。

 

そんな折、

三日間だけ自分の実家に帰ることになりました。

義母はカズオの服にお守りを入れるほど、

心配そうです。 

「風邪引かさないようにね。 

 夜露に当てたりしちゃだめだよ」

そう言って、しぶしぶ送り出しました。

 

サナエは息子を連れて、

久しぶりに実の母親と買い物に出ました。 

カズオを 緊張気味にしっかり抱いて歩き回る

サナエを見て、

母は「どれ、こっちによこしなさい」と

両手を差し伸べました。

八人もの子どもを育て上げた逞しい腕です。

 

母はカズオを抱いて しばらくすると、 

くたびれたのでしょう。 

バーゲンセールの服の山にひょいと乗っけました。 

カズオはキョトンとした顔でしたが、

まんざら居心地悪くもなさそうです。

「ほれ、あっちで買いたい物があるんでしょ? 

 行っといで」

 

義母がこの光景を見たら、

どんなに驚くことでしょう。

サナエもちょっとびっくりしましたが、

同時に 暖かいものを感じました。

 

母は、サナエの都合を優先してくれている。 

「カズオの母」でしかなかった自分が、

サナエに戻った気がしました。

 

サナエは母に聞きました。 

「ねえ、母さん。 孫と娘と、どっちがかわいい?」

母は、すぐに答えてくれました。 

「もちろん、我が子さ!」