エリザベス
お気に入りの和食店に行ったら
混んでいた。
順番待ち表に
「エリザベス 一名」と書いた。
先日 イギリス製の万年筆を買ったので
今日はエリザベスの気分なのだ。
腰かけて本を読んでいるうちに
自分が誰なのか忘れかけていた。
「エリザベスさん。エリザベスさん。
エリザベスさんは
いらっしゃいませんか?!」
ハッと気がついて
「は~い。私です。わ・た・し!」
高々と手を上げると
目の前の人混みが
まるでモーゼの十戒の場面のように
さ~っと左右に割れ
私は怪訝な表情で見守る客たちの前を
「すんませんね。すんませんね」と
へーこらしながら案内の席へ向かった。
身長150センチ未満。
アジア系固太りのおばさん。
名前と風貌とのあまりのギャップに
この不思議な物体を
どう解釈すればいいのか分からず
口をあんぐり開けている人もいる中で
私のすぐ後ろから来た40代位の女性が
好奇心に駆られ 声をかけてきた。
「あの・・・二世さんなの?」
「いいえ」
「フィリピンかどっかの人?」
「いいえ」
「じゃ~・・・」
「沖縄と鹿児島の混血児です。
ちなみに、先月はフランソワでした」
その人は 全てを察し 笑い転げた。
混んでいたので 店の人に
「相席でいいですか?」と問われ
二人とも快諾した。
それから
まるで旧知の仲のように話が弾み
なんと食後は二人して映画を観に行った。
名前を変えるだけで 友が釣れた話。
⁂ これは 去年のお話しです。
今は なかなか人混みの中に出ていけない状況ですね