歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

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論文のため家庭調査をした大学教授から、

こんな話を聞いた。

ピシッと掃除が行き届いている家ほど、

「散らかってますから」などと言って、

他人をいれたがらない。 

「ほんとうに」散らかっている家は、

気軽に人を入れる。

 

なるほど、そういえば 一頃 

うちは 仰山(ぎょうさん)人の出入りがあったなあ。

アウトドアという言葉があるけれど、

うちは さしずめ ノードア状態。

帰ってくると「あんた誰?」

なんて聞かれたこともあったりして

――この家の主だっちゅうの!

 

友だちが、庭の景観賞を受賞した家を

見に行こうというので、ついてったことがある。

静かな住宅街の一角にある ごく普通の家なのだが、

玄関周りや門塀に沢山の花鉢が

センス良くあしらわれていた。

 

「あ、ここだ ここだ。 

たしか、庭は裏にあるのよね」

友だちはそう言うなり、ずかずかと入り込んでいく。

「ちょっと! 人んちでしょ!」

「だって、ほら」

と指さす方を見れば、表札の横に

「どなたでもお気軽にお入りください」とある。

 

庭に回ると、ちょうど 三十代位の女主人が 

手入れをしているところで、あまり広くもない庭に、

いかにして四季折々の花を咲かせるか、

その工夫と苦労を語ってくださった。

 

「織物もなさるんですか?」

ミーハーな友だちは、

庭からガラス越しに家の中の様子を覗(うかが)った。

「いいえ、でも骨董品とか色々置いてあるんですよ、

どうぞ」

友だちは ほいほい ついてって、

さんざん見て回ったあげくにお茶までいただいた。

 

私はどうも その家の雰囲気が 気になっていた。 

暗い。 

 

女主人は、きわめて礼儀正しく

接してくださるのだが・・・・・・

と、その時、小学生くらいの男の子が、

私たちのいる茶の間に顔を背けるようにして、

すっと廊下を横切った。 

 

え? 人、いたの? と思った矢先、

今まで にこやかに話していた女主人が、

俄(にわか)に厳しい顔立ちとなり

「ご挨拶は!?」と、鋭く言い放った。

身に突き刺さるような 冷たさを感じて、

私はその子が気の毒であった。

 

人の出入りが多いからといって、

その家がフレンドリーとは限らない。

見せたいがための家で、

人目を気にして縮こまっている家族がいたとしたら、

そこはモデルハウスであり、もはや家庭とはいえない。