歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

言の葉

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私はローラ・インガルスの大草原の小さな家が好きで、

どうしても原作に触れたくなり、

35歳の時にアメリカン・スクールの

おばさん高校生となって英語を学んだ。

そして、そこの図書館

(学校に入った目的は、高い洋書が、

ただで読めるからでもあった)で、

あらためて全集を読んでみると、

和訳されていないアルマンゾ家の

農事風景などが書かれた一作を見つけて、

まるで宝物でも発見したかのように

狂喜したものである。

 

ESL(English as a Second Language

= 外国人のための初歩クラス)から、

中学、高校の聴講生となっていったが、

中学クラスで印象的な事柄があった。

 

そこの学校はずいぶん荒れていて、

特に中学生はまともな授業が出来る状態ではなかった。

授業中のおしゃべりはもちろんの事、飲み食いしたり、

勝手にぷいと飛び出したりもした。

わたしゃ、筆記試験ではまあまあ、なんとか聞けて、

しゃべるのは「あんた、行く? これ、だめ?」

程度のインディアン言語の状態だったので、

おばさん力を発揮して躾けるどころではなく、

ただ一度

「Shut up ! (黙れ)」と言えただけであった。

 

大学出たてで 新米のナンシー先生は、

そんな子どもたちに ほとほと手を焼いていた。

ベテラン教師が、たまに訪れて叱ったりしたが、

いなくなるとすぐに騒々しくなる。 

なだめたり、すかしたり、色々と試みたあげく、

ナンシー先生は

疲れ果てたかのように窓の側に立ち、

ぬけるような青空と木々を見遣った。

 

白に小花模様の清楚なワンピースは、

スラッとした長身の先生によく似合っていた。

短くカットされた金髪に、木漏れ日が踊っている。

やがて先生は教壇へ戻ると、

一冊の詩集を取り出して朗読した。

 

自分の好きな詩を、時折目を閉じながら、

優しく、力強く、流れるように――。

言の葉が ひとひら ひとひら 

子どもたちに 舞い落りていった。

 

読み終わって目を上げたナンシー先生は、

思いがけない光景に出くわした。

教室はまるで湖の底のように静まりかえり、

子どもたちの目は一心に先生を見つめている。

中には涙ぐんだ子さえいた。

やがて、パチ、パチ、と 

どこからか手を叩く音がして、

瞬く間に拍手喝采となった。

 

「Oh! Thank  you」

ナンシー先生の 透き通るような白い頬が、

ほんのり紅色に染まった。