歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

気にしない

f:id:tamacafe:20200721194056j:plain

クミさんは、大らかな性格です。 

学生時代は、朝寝坊でよく遅刻をしていました。

その罰に、

運動場を一周する というのがあったのですが、

みんなは 恥ずかしそうに うなだれて歩くのに、

クミさんだけは、

窓際に座って授業を受けているお姉さんに 

手を振ったりしていました。

 

けれど、やるときには やる、

というところもありました。

高校を卒業して、バスガイドになるのですが、

誰よりも早く説明を覚えて、

台本無しで完璧な案内をしていました。 

その努力は、

東京の会社でも認められて、

沢山のガイドを頼まれるようになりました。

 

けれど、同僚の妬みや嫉妬は相当のもので、

嫌がらせもしばしばでした。

 

やがて「やるだけは やった」バスガイドを終えて、

クミさんは、とあるクラブに勤めるようになりました。

そして、そこで知り合った人と結婚しました。

 

ご主人はリース会社の社長さんでした。

二人で北海道にバイクツーリングに行ったり、

クミさんの手早く美味しい料理を食しながら、

夜遅くまで酒を酌み交わしたりする 

おしどり夫婦でした。

でも、そのご主人が突然 

心臓発作で亡くなってしまったのです。

 

すると、いつもクミさんがお世話して

「ありがとう。いい嫁が来た」と、

喜んでいたお姑さん初め、兄弟や親戚の人たちが、

手のひらを返したように

「水商売の女は信用できない」

などと言い始めたのです。

 

そして、ご主人の会社も家もすべて取られて、

二人で可愛がっていた犬と共に

追い出されてしまいました。

やがて、その犬も癌になり、

大金をかけて治療した甲斐もなく、

死んでしまいました。

 

 

クミさんは、人材派遣会社に登録して、仕事が入れば、

あちこちの工場に働きに行くようになりました。

派遣のパートは、そこの工場にもとから勤めている

パートさんたちに比べると時給が高いのですが、

いきなりの仕事でとまどうことも多く、

そのせいで、いじめられることもあるようです。

 

愚痴の一つも聞いてやろうかと、家を訪ねてみました。

「ポテトチップスの袋あるじゃん。 

 ほら、裏側が銀色のやつ。

 あれね、印刷ミスでよく捨てられるのよ。 

 もったいないからさ~、細く切って、

 それを丸めてタワシにしてみたんだけど、あんまし、

 良く落ちなかったなあ。 

 見た目はアルミタワシみたいだったのに・・・」

 

「あのさ、なして そんなに元気なわけ? 

 普通なら もう生きてく気力も

 無くなるだろうに・・・」

 

「自殺する人の気が知れない。 

 働こうと思ったらどこでも働けるじゃん。

 わたし、仕事が楽しくてしょうがないのよ。 

 工夫するのが面白いの。

 そりゃね、失敗することもあるよ。 

 そのときは謝る。 ちゃんとね。

 でも、後はケロッとしてる。 

 ほかの人がなんと言おうと気にしない」

 

そして、こんな事も言いました。

「昨日まで、課長だ、部長だって威張ってた人が、

 リストラで、会社の用務員に格下げされて、

 庭の手入れなんかしているの。

 人目を避けるように、なんとも惨めな感じでね。

 偉いとか、普通だとか、人生終わってみれば 

 あまり関係ないと思うよ。

 わたしは、仕事を楽しめるうちはやる。 

 楽しくなくなったら、

 また別のことを始めればいいのだから」

 

頑張り屋で 我が道を行く クミさんは その後 

猛勉強して資格を取りました。 

今では あっちこっちの介護施設から引っ張りだこの 

優秀なケアマネージャーさんです。