歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

一人になれる時間

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「 ねえ、 あなた 聞いてるの? 」

トミコは タカオが 自分の話に 

いつも 上の空でいるのが 気に入りません。

家のことや 子どものことで 色々と 

話したいことがあって 待ちわびているのに

あ~ だの うん だの 生返事ばっかりで

自分に しっかり向き合ってくれないのが嫌でした。

 

また、 取り立てて 話すことが無い日でも、 

タカオが 帰ってくると 

トミコは 自分のことはさておき

夫婦の時間を 大切にしよう という思いで 

タカオの側に 居るようにしていました。

 

文句を言った翌朝、 

いつものように タカオを会社に送り出してから 

ささっと掃除をすませ

読みかけの本を片手に 

ベランダのロッキングチェアーに揺られた時でした。

至福の時とばかりに ほっと一息ついた瞬間、 

ふと タカオの顔が浮かびました。

「 あの人に こんな時間が あるかしら? 」

 

「 おはよう 」 から 「 おやすみ 」 

までの間、 家族と会社の人、 

お得意先やらあれこれ、 

タカオの周りは 絶えず人人人・・・・・・。 

一人でホッとする時間なんて 無いのかも知れない。

 

だからこそ ―― と、 トミコは考えました。

悪気は無くても 無意識のうちに 

一人の時間を 確保しようとしてるのかしら 

―― 新聞でバリヤーを張ったりなんかして。

 

その事を思ってから、 トミコは 

タカオに張り付くのを 減らすようにしてみました。

その分、 自分も タカオのことを気にせず 

手芸をしたり 書き物をしたりしました。

朝早く 夜は遅い タカオですから、 

出来るだけ一緒にいなければと 

思い込んでいましたが、

お互いの 存在を感じながらも 

そっと距離を置いてみると、 

まるで 友だち同士で 共同生活しているような 

これはこれで いいもんだなぁ 

と 思うトミコでした。