愛の歯ブラシ
介護の現場で意外に悩まされるのが口臭です。
原因はいろいろありますが、
硫化水素やメチルメルカプタン等の
揮発性硫化物を含むその臭いは強烈です。
それが周りの人たちに不快感を与え、
ストレスになったりするのです。
また、口の中の汚れが原因で、
高齢者に多い誤嚥性肺炎を起こし、
重篤な状態になることもあります。
空気以外の異物が誤って気管に入ってしまうことを
誤嚥といいますが、
通常はゴホン！とむせて排出します。
しかし、反射機能の衰えでうまく出せず、
体力や免疫力が低下した方だと、
歯垢やかび等のばい菌を含んだ唾液がそのまま
肺に至って炎症を起こしてしまうのです。
ある老健施設に訪問歯科が入り、
口腔清掃をせっせと行ったところ、
それからの五年間というもの、その施設始まって以来、
亡くなる人が出なかったそうです。
実施した歯科医によると、うっとうしかった病室に
爽やかな空気が流れ、
介護する人たちの表情も明るくなったとのこと。
しかし、いつも歯科医や衛生士に頼む
というわけにもいきません。
介護だけでも大変なのにと思われるでしょうが、
毎日、ほんの少しの時間を充てるだけで、
本人はもとより、周りも気持ちよく過ごせるので、
是非もうひと踏ん張りして欲しいです。
そのためのデンタルグッズも色々あります。
リハビリの意味でも本人がやるのが望ましいのですが、
通常の歯ブラシが使いづらければ、
握りやすいように柄が曲がるものや、滑り止めの
グリップリング等を利用してもいいでしょう。
介助者用としては、粘膜部分は消毒液を含んだ
ガーゼで拭き取ってもいいのですが、
スポンジに柄のついた
小さなコップ洗いのようなものだと
奥まで行き届きやすいです。
舌ブラシやクリーナーもいいでしょう。
歯を磨くには、ブラシと一体化したチューブで
誤飲を防止する吸引ブラシというのもあります。
電動ブラシもありますね。
ただし、安物は毛先が雑で歯肉を傷つけたりするので
注意しましょう。
柔らかく、毛先がラウンドカットされたもので、
開いたら早めに取り替えましょう。
なるべく研磨剤の入っていない歯磨剤を使い、
押し付けないようにソフトタッチで磨くようにします。
「ラブブラシ」という商品名で
売られているものがありました。
ゴム製の指サックで、
先のほうが歯ブラシになっています。
ある訪問先で、大変仲の良い老夫婦がいて、
寝たきりのご主人の口の中を、
奥さんは毎日欠かさずそれで磨いてあげていました。
「この時が一番気持ちがいい」と言うおじいちゃんの、
あのうっとりした表情が忘れられません。
まさしく、愛の歯ブラシ、なんですね。
