歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

帰ってきた息子

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息子がいなくなった!   

いったい どこで どうしているのか。

 

底抜けに明るい、ひょうきんな息子。 

あの 屈託のない笑顔が、忽然と消えてしまった!

恐い思いをしてはいないか。ケガをしていないか。 

どこぞに押し込められて、苦しんではいないか。

 

たかが十円玉ひとつで、おまえをぶつんじゃなかった。

植木鉢を壊したくらいで、

土下座なんかさせるんじゃなかった。

ブロッコリーを食べないからといって、

ハンバーグを取り上げたのは、あんまりだった。

 

どうしてる? どこにいる?

 

授業参観日には、

おまえの好きな服を着て行けばよかった。

たまには、金曜サスペンスではなく、

サッカーを観せてやればよかった。

教えたおまえに将棋を負けた腹いせに、

早く寝かさなくてもよかった

 

痛い目にあってないかい?

 

レギュラーになれないからって、

無理に牛乳を飲ますんじゃなかった。

30分肩をもまなくても、小遣いをやるんだった。

80点以上取らないと、お嫁さんは来ないよ、

なんて 脅すんじゃなかった。

 

どうしてる? どこにいる? 息子よ!

もう何も言わない。 何もいらない。 

おまえさえいれば――帰ってきておくれ、息子よ!

 

「ただいま~」

 

「おかえり。 タカシ、今日はどうだった?」

 

「はい、これ」

 

「さ、30点!? ―― ま、いいか。 

生きてるだけでも有り難い、ってことで」

 

「お母さん。 また ぼくが 

『いなくなったらゲーム』 やっていたでしょう」

 

「へっへっへっ。 テストの日はこれにかぎる。 

でなきゃ、やってらんないよ。このバカ息子」

 

 

 

おちゃらか おちゃらか おちゃらかほい

あんたの息子だもの おちゃらかほい!