緊急事態
小は我慢できるのだが、大はどうにもならない。
買い物帰りのツネミは 急に もよおして、
近くの民家に立ち寄った。
玄関口で家人を呼んだが、
いっこうに出てくる気配はない。
「すみまっしぇ~ん!」と大声を張り上げて
やっとお爺さんが現れた。
「なんじゃい」
「あの、すみません。お手洗いかしてください」
「手なら、裏の井戸であらえ」
「いえ、お手洗いです。かしてほしいんです」
「人に貸す金はない」
「いえ、だから、ね」
「はあ?・・・ はあ?」
あああ~! この爺さんの耳は鼻になってしまえ!
と、わけの分からんことを口走りながら、
ツネミは斜向かいのアパートへ駆け込んだ。
一部屋目。 ピンポーン。 返事がない。
二部屋目。 ピンポ~ン。 「ごめんくださ~い」
中から「セールスはごめんください」
なんて、洒落てる場合か!
それっきり、声を掛けてもウンともスンともない。
三部屋目。 ピンポ~ン。 カチャ。
ようやく開けてくれた!
ツネミの形相に恐れをなした住人が、
反射的にドアを閉めようとする。
切羽詰まったツネミは、物売りがよくやるように、
サッと足を突っ込んだ。
「あ、怪しいもんじゃござんせん!
トイレ、トイレかしてください!
必ず、かえします! から!!」
こんな苦労をしたツネミは、タカシのランドセルに
いつも ティッシュではなく
トイレットペーパーを折りたたんだヤツを入れる。
男の子なら「どこででも」できるだろうという親心だ。
タカシはイヤでたまらなかったが、
それが役に立つ時がきた。
登校中に、やってきたのだ。
寝坊して、まだ 今日の分を出してなかった。
学校までもちそうにない。
まわりには公衆トイレも隠れてやる場所もなく、
生徒もうろうろしている。
タカシは急いでトイレットペーパーを取り出すと、
上着を入れるふりをして、パンツの中に差し込んだ。
と、同時にお尻の辺りがほっこりしてきた。
うぇ~ん。 どうすりゃいいんだよ~! と思いつつ、
とりあえず別のルートを辿って、
がに股で家に帰ろうとしたら、なんと、そこに
燦然(さんぜん)と輝くコンビニエンスストアを見た!
いつのまにやら、出来ていたのだ。
便器に腰掛けて一言「地獄にほっとけ~!」
ツネミのトイレットペーパーは、
れいのものを しっかり受け止めて、
下着も全く汚れていない。
おかげでタカシは、そのまま学校へ行くことができた。
ありがとう、お母ちゃん。 ありがとう、コンビニ。
おちゃらか おちゃらか おちゃらかほい
なるべく家でやんなはれ おちゃらかほい