歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

スイカ

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イカが大好きで、いつか一人で 

半分に切ったヤツを スプーンですくって食べ、

皮をヘルメットのように 

被(かぶ)るのが夢だった。

実現したのは、大人になってから。

被って、敬礼したのはいいけれど、 

達成感の割に 肝心のスイカは 

あまり うまいと感じなかった。

 

思えば、きょうだいが多かったせいで、

幼い頃から食い物の争奪戦に明け暮れていた。

母は、料理を大皿にドン! と出すので、

小さい私は、食卓の中心に手を伸ばす為に、

跪(ひざまず)いていては間に合わず、

いつも臨戦態勢で 

浮き足立っていなければならなかった。

 

ゆで卵一個、チキンの足一本というのも、

行事の折に貰えるかどうかというところ。

卵焼きも 肉も、分けられたり、

ちぎられたりしたものだった。

 

ある時、親戚のおばさんから、

砂糖入りポッカレモンの小瓶をもらった。

口に含むと甘酸っぱい香りが広がった。 

「自分だけのもの」 というのが嬉しくて、

私はそれを戸袋に隠しながら、チビチビ飲んでいた。

ところが、ある日 取り出してみると 空っぽ! 

蓋がキチンと閉まっていなかったせいで、

すっかりこぼれてしまっていたのだ。

「どうしたの?」と 

きょうだいに聞かれても困るので、

泣くに泣けなかった。

 

極めつけは、土産にもらった奈良漬けの壺を 

姉が独り占めしようとして 

ラグビーボールのように小脇に抱え、

箪笥(たんす)の上に登った時だった。

きょうだいが寄ってたかって引っ張り、

姉はとうとう落っこちて左手を骨折してしまった。

その当時高校生だった もう一人の姉が、 

すばやく 手近にあった そろばんを 

折れた手の添え木にし、

布でグルグル巻きにして病院へ連れて行ったら、

医者に褒められた。

 

食べ物の恨みはさることながら、

それにまつわるエピソードも多い。

奪い合い、分け合う仲間がいたからこそ、

その一切れが有り難く、

実に「うまかった」んだなぁと 今になって思う。