歯磨き
人間本来のゆったりとした自然な営みの中で、
自分の心と体に聴いている人には、
理屈なんていらないのだと思う。
静かに食卓に向かっていると、
それぞれの素材を届けてくれた人々、
作ってくれた人への
思いやりや感謝があふれてくる。
親から与えられた丈夫な歯を当然手入れするし、
「よく噛んで食べましょう」と言われなくても、
じっくり味わうだろう。
ところが、情報が氾濫する中で
雑多な知識にがんじがらめになり、
人間不信に陥っている現代人には、
そういう話をしてもなかなか伝わらない。
「よく噛むと歯根膜から神経を通じて
間脳の視床下部に情報が伝えられます。
すると、ヒスタミンというのが出て、
満腹中枢に働きかけ、食べ過ぎを防いだり、
内臓脂肪を減らして基礎代謝を上げる
役割をしてくれるのです。
それは、かみ始めてから10~15分以上
経った頃盛んに分泌されると言われています。
ですから、ゆっくり食べましょう」
と、わざわざ説明する。 あ~しんど!
質問の答えも一様ではない。
質問は同じでも、質問者が違えば、
おのずと答えも違ってくる。
「歯は何回磨いた方がいいですか?」
という質問があるとすると、
まず、その人がどういう環境の中にあるのか、
どんな気持ちで聞いているのかを知るように努める。
子どもとのコミュニケーションがうまくいっていて、
周りの協力も得られているようだと、
基本的に「食べたら磨く」でいい。
大抵そんな人はすでに3回くらいやっているものだ。
要は「よく頑張っていますね」
と、褒めてもらいたいのである。
仮に母子家庭で、
仕事と育児にくたくたの母親がいるとすると、
果たしてそんな答えを望んでいるだろうか。
「一回でもいいですよ。
夜が無理ならいつでもいいです。
お母さんも お子さんも、
一番リラックスできる時にやってみましょう」
と言ってあげる。
「磨いている、というのと、磨けている、
というのは違うんです。
たとえ一回でも丁寧に磨くことができれば、
一日4回磨くより良いことだってあるんです。
ついでですけど、保育園の先生が、
子育ては時間より質だと言っていましたよ。
子どもとあまり一緒にいられなくても、
帰ってきた時にしっかり抱いてやれば、
いい子に育つって」
子どもを愛している人ほど、罪責感に悩まされる。
いつも、自分は子どもに十分な事をしてやれない
と思いがちである。
少しでも楽になる手助けがしたい。