歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

無口な男

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シンさんは、とても親切な人です。

車が必要な時は、さっと送迎役をかってでます。

作業小屋を作りたいといえば、

朝早くから手伝いに来ます。

雨続きで、乾燥機が欲しいと思ったら、

どこからともなく持ってきて、

庭先にそっと――しかも二台!

――置いていったりします。

 

しかし、

シンさんがやってくると、

たいていみんな相手をするのを嫌がります。

ほとんど、しゃべらないからです。

電話をかけてきても、

「う・・・」 と聞こえただけで、

ああシンさんだと分かるのですが、

その後、こっちから聞き出さないと 

なかなか要点を得ないのです。

 

ある日、私は ほとほと疲れてしまって、

シンさんの横で黙り込んでしまいました。

初めは 「ずるいよ。 人にばっかり話させて」 

と、ちょっと怒っていましたが、

こっちがしゃべってようが、黙ってようが 

いつもと変わらないシンさんの様子に、

だんだん居心地良いものを感じてきました。

 

私たちは、素を見られるのを、

恐れているのかもしれません。

だから、しゃべりまくるのです。

 

シンさんは、いつも作業着のような服を着ています。

履き物は、

よくトイレに置いてあるようなスリッパです。

工事現場で働いていたこともあったので、

ライトバンの後部に様々な工具を積んでいます。

 

友だちのおばあちゃんの葬儀がありました。

シンさんもお焼香にやってきましたが、

台所の方で、水が出ないとみんなが騒いでいます。

タンクが故障したらしいのです。

シンさんは、車から工具を取り出すと、

さっさと屋根に上ってタンクの修理にかかりました。

 

しばらくすると、水が出て、

お陰で葬儀も滞りなく済ませることが出来ました。

「あの修理屋さん、誰が呼んだの?」

「お金、払った?」

友だちも忙しくて、

シンさんには会っていなかったので、

あれは誰だったんだろうということになりました。 

後に、もしやと思って確認し 

分かったらしいのですが・・・。

 

シンさんを見てると、宮沢賢治の詩が浮かんできます。

 

みんなにでくのぼうとよばれ

ほめられもせず

くにもされぬ

そんなひとにわたしはなりたい