「え? だって、 問題はないでしょう?
栄養士さんだって何も言わなかったわよ」
三歳児健診の会場。
ユイを抱っこして座っているマユミの前で、
歯科衛生士は いぶかしげに小首を傾け
あらためて 問診票とデータに 目を通した。
「なるほど、 数値の上では
基準を満たしているので、
指導に上がってこなかったんでしょうね」
マユミは ほとんど料理せず
夫共々 サプリメントを常用している。
ユイの食事も すべて
ベビーフードを買い与えていた。
なめらかだし 衛生的だし
何より 完璧な栄養摂取の方法だと信じている。
その証拠に、栄養指導で引っかかった事がない。
それでいいじゃない。
ちゃんと 育ってるってことじゃないの。
ふくれっ面で睨み付けるマユミに
たじろぐことなく 歯科衛生士は言った。
「あなたね~、
ロボットにガソリン与えてるわけじゃないのよ。
よく噛むことによって 唾液と食物が混ざり合い
味を知ることができるし、
脳波が安定して ストレス解消にもなる。
食べ物の色 香り 歯触りが
五感を刺激して 幸福感を産み出す。
子どもは 食卓を通して 季節を知り
地域の事を知り 感謝の心を育むのよ」
他にも色々指導されたが、
めんどくさいな~という思いで聞き流していた。
家に帰り ドッと疲れて いつものように
サプリメントに手を伸ばしかけた時、
歯科衛生士の 最後の一言が よみがえってきた。
「食事が 楽しい!って 思ったことありますか?」