歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

サプリな生活

f:id:tamacafe:20201020125644j:plain

「え? だって、 問題はないでしょう? 

 栄養士さんだって何も言わなかったわよ」

 

三歳児健診の会場。  

ユイを抱っこして座っているマユミの前で、 

歯科衛生士は いぶかしげに小首を傾け 

あらためて 問診票とデータに 目を通した。

 

「なるほど、 数値の上では 

 基準を満たしているので、 

 指導に上がってこなかったんでしょうね」

 

マユミは ほとんど料理せず 

夫共々 サプリメントを常用している。

ユイの食事も すべて 

ビーフードを買い与えていた。 

なめらかだし 衛生的だし 

何より 完璧な栄養摂取の方法だと信じている。

その証拠に、栄養指導で引っかかった事がない。

 

それでいいじゃない。 

ちゃんと 育ってるってことじゃないの。 

ふくれっ面で睨み付けるマユミに 

たじろぐことなく 歯科衛生士は言った。

 

「あなたね~、 

 ロボットにガソリン与えてるわけじゃないのよ。 

 よく噛むことによって 唾液と食物が混ざり合い 

 味を知ることができるし、 

 脳波が安定して ストレス解消にもなる。 

 食べ物の色 香り 歯触りが 

 五感を刺激して 幸福感を産み出す。

 子どもは 食卓を通して 季節を知り 

 地域の事を知り 感謝の心を育むのよ」

他にも色々指導されたが、 

めんどくさいな~という思いで聞き流していた。

 

家に帰り ドッと疲れて いつものように 

サプリメントに手を伸ばしかけた時、 

歯科衛生士の 最後の一言が よみがえってきた。

 

「食事が 楽しい!って 思ったことありますか?」