歌う珈琲屋さん

クラシック歌曲・オーガニック珈琲

孤食

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マナミは 毎日遅い夫の帰りを 待ち続けました。

やっと 電話が入ったかと思ったら  

「よそで食べてくる」 という連絡でした。

初めの頃 そういう日は 

テレビを観ながら 食事をしました。

でも 食べ物を 無造作に 口に運んでいるだけで 

なんとも 味気ないものでした。

 

テレビを消して 食卓の向かいに 鏡を置きました。

夫の代わりに 自分に話しかけました。

「 おいしい? ん~・・・

 この さんま 脂がのってるね~。 

 ごはん・・・しょっぱいよ・・・」

そんな風にしている自分が 

みじめでもあり いとおしくもありました。

 

やがて 鏡との食事が増えるにつれ 

マナミは真摯に自分と向き合うようになりました。

学生時代に知り合った彼に 一目惚れして 

地の果てまで追いかけるような気持ちで 

郷里に帰った彼の所へやって来ました。

 

おとなしくて 誰にも優しい彼は 

どこに行っても 引っ張りだこでした。

結果 家庭を顧みずに 

仕事や付き合いに出歩く毎日でした。

 

マナミは 彼が 本当は 自分を 

愛してないのじゃないか と 思いました。

自分の強引さに 

負けてしまっただけではないのかと ―― 。

そう考えると 何もかもが ハッキリしてきました。

そして このままでは いけない 

という気持ちで一杯になりました。

 

「話したい事があるから 今日は 早く帰って」  

と 夫に願った日

「ごめん。これから ちと 集まりがあって」 

との電話。

マナミは 食卓の鏡の前に 置き手紙をして 

家を出ました。

今度は 夫自身が 自分と向き合う番でした。

 

P.S.

その後 マナミさんの夫は 詫びを入れてきましたが

マナミさんは それが 彼の優柔不断さと知っていて 

受け入れませんでした。

 

数年後、彼は三人の子持ち女性と結婚しましたが、

それもうまくいかず、

40代半ばで心筋梗塞で逝ってしまいました。

 

マナミさんは、郷里に帰り 再婚して 

穏やかな日々を送っています。